不安定化する市場「米国金融不安の功罪」
FRB(連邦準備制度理事会)は11月3日、QE2と呼ばれるかつてない大規模な金融緩和第2弾を打ち出した。2011年6月末までに6000億ご(約48兆円)の国債を購入する。しかし、発表直後から身内のFRB理事や地区連銀の総裁を含め、国内外から批判や疑問の声が噴出。15日にはエコノミストらが公開書簡を出した。

この金融緩和策に対する批判は、整理すると次のようなものだ。
第一に、量的緩和が効果を発揮し、市場にドルがあふれた場合。成長する新興国に投機資金が流れ込み、バブルを助長する、あるいは、ドル安が加速し交易条件のうえで他国を不利にする、と指摘されている。
米国内からはインフレを適切に制御できるのか、といラ批判が出ている。ゼロ金利の時間軸効果によって目先は長期金利を低く抑え、将来のインフレ期待を高めることで投資や消費を促す、というのがFRBにとって都合のよいシナリオ。だが、予想を超えて長期金利が上昇してしまうおそれはないか、というわけだ。この点でエコノミストやとりわけ共和党の議員から猛攻撃を受けている。
第二に、量的緩和は効果を発揮せず、FRBが物価の安定と並ぶ政策目標にしている雇用の最大化には寄与しなしないのではないか、との疑問である。企業や家計がバランスシートの調整を進めているので、銀行を通じて市中にカネが回らない。連銀に準備預金が積み上がるだけで、実体経済に効果はない、というものだ。
株価の反応はFRBの思惑どおり
もちろん、実際のQE2の効果はまだわからない。ただ、市場は発表前から材料として織り込んでおり、すでに出尽くし感が漂っている。
8月27日のジャクソンホールでのバーナンキ議長による講演以降、QE2のアナウンスメント効果が現れた。さらに、9月21日の声明で具体的な金額が取りざたされ、弾みがついた。株価は8月31日から上昇。9月21日以降は上値を追う展開となった。FOMC(連邦公開市場委員会)直後11月5日を境にピークアウトしたが、この間、ニューヨークダウ平均株価は1万00009ドルから1万14444ドルまで上昇した。
FOMC直後、ワシントンポスト紙への寄稿で「株価を押し上げ、家計の消費を促す」としたバーナンキ議長。目的は見事に果たされたと言えるかもしれない。クリスマス商戦も出だしは好調だ。ただ、堅調な経済指標の発表が相次いでいることから、QE2がなくても米国景気は底堅かったとの見方もある。
為替はどうか。対ユーロでは8月末の1ユーロー=1.26〜1.28台から1.421ドルに下落した。ただし、対円では日本政府の介入があった9月15日の1ドル=86円から10月291ドルj=80・37円まで下落した後、ドル高に転じている。ユーロ危機に加え新興国が金融引き締めを行ったため、ドルは相対的に強くなった。もとよりバーナンキ議長は「FRBの政策はドル安を狙ったものではなく、新興国のドル買い介入こそが問題」と反論しており、結果的に為替は小康状態となっている。
不安定な長期金利深まる新興国との溝
波乱の展開となったのは、債券相場だ。米国の長期金利は10月7日の2・38%を底に上昇(債券価格は下落)。いったん下がったが、FOMC翌日から再び上昇し、現在は3%手前で攻防を演じている。予想以上にインフレ期待が高まっている。
日本もそのあお4をくらった。円高をめぐる狂噪が収束する一方、日本の長期金利も0・86%から1.2%へ上昇した。もともと日米の長期金利は連動する傾向がある。ところが、欧州のソブリン危機で、米国債は安全資産として買われ、金利が下がった時にも、日本の長期金利は
なかなか下がらない。三菱UFJモルガンースタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジストによれば「金利低下局面で安心して国債を積み上げていた日本の機関投資家が損切りに走った需給の要因が大きい」という。
市場が不安定化している背景の一つには、バーナンキ議長の責任ではない誤算がある。欧州のソブリン問題の再燃だ。もともとギリシャ危機以来、ドミノ倒しの不安を抱えているとはいえ、独メルケル首相の「13年以降、民間債権者にも負担が求められる」との発言がなければ、これほど市場心理は振れなかっただろう。一方で、新興国の相次ぐ金融引き締めには、米国とそれに連れ立っての日本の金融緩和がバブルを助長したのも一役買っている。
世界が一枚岩となって金融危機に対峙したりIマンショック後とは様変わり、各国の経済状況は大きく異なる。「金融引き締めに動く新興国と金融の超緩和状態へ進む日米と、かつて金融政策がこんなに乖離したことはない。これは金融市場のボラティリティ(変動率)を高めた」と三菱UFJモルガンースタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は指摘する。グローバルな資金移動の中で、当局も金融政策の波及効果が読めなくなっている。
為替レート 1ドル=50円の時代がやってくる
「1ドル=50円」を掲げて世界各国は協調せよ
「通貨戦争」は簡単に終わらない。背景にある世界経済の不均衡是正にはドルの過大評価修正が必要だ。
「通貨戦争」。最初にこの言葉を口にしたのはブラジルのマンテガ財務相とされるが、同志社大学大学院の浜矩子教授はかねて世界各国が切り下げ競争に陥るリスクに言及してきた。その真意は……。

各国が近隣窮乏化策へ走る可能性を以前から指摘されていました。
為替競争は厳しい状況で万策尽きた国々が必ず迎える局面です。内需拡大をやっても十分ではない。そこで、外需の取り込みを考えたとき、安売りでいこう、となります。一方で、安い輸入品の過激な姿である通貨戦争に至るのは、過去から繰り返されたパターンです。
歴史的にはドルの過大評価が続きました。リーマンショックが起こり、金融の世界の暴走は破綻という形で一応、決着をみた。それでガス抜きできたならば、為替戦争に至らなかったかもしれません。しかし、各国が必死に生命維持装置を付け、リーマンショックに対応した世界経済の不均衡の調整を途中でやめた。
結局、バブル的な状況が見えてきた中、ガス抜きのため、金融と並ぶおカネのもうーつの「顔」である通貨の世界で決着をつけなければならなくなったのです。
ドルの過大評価という意味は。
米国経済の不均衡を是正できる水準に比べて過大、という意味です。同国経済はデフレに近づいているのに、対外収支増加も都合が悪い。保護貿易主義の最もは赤字でしょう。これは完全に矛盾しています。国内でモノが売れず、海外に押し出しているわけですから、デフレなら本来は対外収支が黒字になるはずです。
量的緩和をやると内需が回復し、対外収支の赤字はさらに増大する。そこで、ドル安にすればインフレになり、対外収支赤字も解消へ向かう。その意味でも、ドルがさらに安くならなければならないことが示唆されているといえます。
対極に位置するのが中国経済です。国内はインフレだけれども、対外収支は黒字。そうしたときには国内調整では不均衡を是正できない。人民元高で問題が解決されることになるのです。
米中両国の歩み寄りが必要?
米国にとってドル安は「渡りに船」でも、ドル暴落は避けたい。バランスの取り方が非常に難しいところです。中国側も人民元の相対的な安さで楽をしてきたので、為替調整は怖い面があるでしょうね。為替調整進行への不安は米国よりも中国のほうが強いと思います。どこで折り合いをつけるかは難しい。そういう意味では、日米中、そしてユーロ圏で「4極通貨協定」を結ぶことを考えてもいいのではないでしょうか。G20合意の実効力に疑問
11月のG20首脳会合では、通貨引き下げ競争回避で合意しました。
実効性という面では甚だ危ういですね。背に腹は代えられないとなれば、また皆が同じ方向へ動くでしょう。言葉での合意には限界がありますよね。むしろ、もう少し長い目で為替相場の落としどころを展望し、そこに向かい協調して進むことを宣言すればいい。たとえば、1ドル=50円でもいいでしょう。
50円とは衝撃的ですね。
定量的根拠に基づいた数字ではありませんが、今後150円になるか、50円になるか、いずれの蓋然性が高いかを考えれば50円に違いないということ。 100円を目安にした場合、価値の半減というのは帰着点としてもイメージしやすい。
水準自体は衝撃的かもしれませんが、50円ともなれば、経済の体質や貿易構造に大きな変化をもたらすはずです。1‰=5o円程度の価値しかなければ相当程度、ドル離れが起きているでしょう。おそらく日本の輸出入の決済も多くがドル建てではなくなる。それが基軸通貨・ドル終焉の最終場面だと思います。
世の中はドルに振り回されずに済む。円高を避けるのではなく、ドルというくびきから解放されるためには、むしろ積極的に目指すべき水準かもしれません。